風土―人間学的考察 (岩波文庫)



風土―人間学的考察 (岩波文庫)
風土―人間学的考察 (岩波文庫)

商品カテゴリ:人文,思想,学習,考え方
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時代に阿った、軽薄な作品

「人間存在の構造契機としての風土性」を明らかにするために書かれた由。だが、冒頭で「自然環境がいかに人間生活を規定するか」は問題ではない、と述べておきながら、結局は自然環境(風土)-->文化-->社会制度と言う風に論理展開されるので自己撞着している。また、書かれた時期が昭和初期、即ち日中戦争の最中である点にも注意すべきである。

風土の類型を、「モンスーン(インド?東アジア)」、「砂漠(中東?北アフリカ)」、「牧場(ヨーロッパ)」と分けるのは如何にも単純過ぎる。"受容・忍従"型で多様性を持つ筈のインドが現在、対パキスタン用に核開発に狂奔している姿を著者は何と説明するつもりか。同じく、「モンスーン」に属する中国が中世において、"合理的"なヨーロッパより遥かに技術的に進んでいた事実は何と説明するのか。著者が海外旅行をして、偶々得た知見(思い付き)を強引に哲学的思索の枠に嵌めようとするから無理が生じるのである。「人間はその土地の気候に合った様々な生活様式・文化を持っている」と書けば、それで終りの話である。それに、「南洋的人間が文化的発展を示さなかった」等と公の本で書いて許されるのだろうか ? 哲学の本場ヨーロッパを"貴"としてようだが、それで世界初の森林の大伐採を行なった西欧人の「風土」に関する価値判断が正当に出来るのだろうか ?

そして、中国の「無政府性」を強調する辺りから論旨は増々怪しくなる。更に日本の「家」制度の忠孝性とその家を統括する意味での尊皇を語っている点は、時代に阿っているとの批判は免れまい。「風土」に根ざした各地域の歴史の紹介も目新しいものは無く、そもそも「人間存在の構造契機としての風土性」を分析して、何の役に立つのか不明だった(日中戦争の正当性の論拠以外)。内容も熟考した上の論理的考察と言うよりは、直観に頼った部分が多く、時代の雰囲気に流されて気紛れで書いたとしか思えない作品。
時代の産物

 和辻は「寒さ」の現象を考察してこのようにいう。
「我々は寒さを感ずる前に寒気というごときものの独立の有をいかにして知るのであろうか。それは不可能である。我々は寒さを感ずることにおいて寒気を見いだすのである。しかもその寒気が外にあって我々に迫り来ると考えるのは、志向的関係についての誤解にほかならない。」
 「寒さ」を感じることにおいて「寒気」を見いだすという。これは逆に言うこともできる。「寒気」を見いだすことにおいて、「寒さ」を感じる、と。このことは、天気予報を考えれば、このことも事実であることに気づく。それは、寒気がわれわれに接近することを告げる。この場合は、寒気というものが独立に存在しているのである。したがって、志向関係はどうでもよいことになる。わざわざ志向関係を述べる必要はない。

歴史的名著かも

モンスーン、沙漠、牧場と3種類の風土を湿度の点からまとめ上げている。その論理、切り口は鋭く、舌を巻く。完全に湿度を絶対的な基準として風土を規定しているのだ。その後でモンスーン的風土について詳しく語り、そこから更に、東西の芸術について風土の点から説明を展開する。
章の始めにまずそこで焦点となる単語の説明をする、間違った意味で解釈したまま読み進めると大変な誤解を招くためであろう。文章は割と読みやすく、また、同じ内容を言葉を惜しまず懇切丁寧に説明する姿は真摯に思う。
敢えて口を挟ませていただくとすると、第5章「風土学の歴史的考察」蛇足かなと思う。それから、もう少し自国の歴史について堪能でいて欲しかった。

和辻倫理学の展開

一五年戦争期に成った著作であるから、ここに書かれていることをそのまま現代に当てはめることはできない(現代なら「都市」の考察は必須だろう…和辻が都市論を書いたらどうなるかと想像するのは楽しい)。また、巻末の解説で井上光貞が綺麗にまとめているような批判も数多い。

にもかかわらず、やはり今でも読み返す価値のある名著であると評者は思う。何よりも、「風土と人間」という二項対立ではなく、「風土とは人間であり、人間とは風土である」とも言うべき和辻の人間観がそこに展開されている点は、人間をめぐる考察が絶えず回帰してくるポイントを貫いている。

天才的感覚・詩人的直感に基づいて綴られていると思しき記述の片言隻句を捉えてオタク的に揚げ足取りをしたり、学問的手続き論やイデオロギー批判によって斬って捨てたりすることはおそらくたやすい。しかしそれで終わってしまっては読み方としてはあまりに薄っぺらいのではないだろうか。
これほどに妖しい光を放つ書物にあたったことがない

養老孟司氏の『無思想の発見』で引用があったので、手に取った。
和辻氏の高名は聞いていたが、敷居が高くて読むのは初めてだ。

一言で感想を言えば、これほどに妖しい光を放つ書物にあたったことがない。
名著とも良書とも違う。誤解を恐れずに言えば「麻薬」のような、そんな魔力をもった書物である。

和辻氏の主張を端的にいってしまえば、気候こそが、そこに住む人たちの行動や思想を理解するカギである、ということである。そのタイプは3つ。

・モンスーン ・・・アジア
・砂漠 ・・・アラブ
・牧場 ・・・西欧

これだけ見ると変な血液型占いみたいだが、実に考察がツボにはまっていてわかりよい。昭和初年の原稿で、どうかすると100年近くまえのものだが、なんというか、100年どころか2000年前から続く民族性を見事に指摘している、という気がした。

まず、読んでちゃんとわかる。ここが、他のえらい評論家たちとちがう。戦争中の発言で批判も多いと聞くが、それはそれ、これはこれ。日本人の国民性を考えるに必須の古典といってよい。素人でもよくわかります。




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